寝不足


「眠い…です。」

それは、ここ数日極卒が一番発する言葉であった。
極卒はここ一週間ほどまともな睡眠を取っていない。
それは、國卒やヴィルヘルム、ジャックなどが軍務の最中にちょっかいを出し、終わる軍務を終わらせてくれないからだ。
昨日は、國卒が会議をとんずらし、極卒が本来なら國卒がする軍務をする羽目に会い徹夜。
一昨日は、ヴィルヘルムがジャックを連れて極卒の執務室に窓を割って乱入。お蔭で重要な書類がインクで汚れたり、窓から飛んだりしたため、大将に説教されたりで徹夜。
その前は、國卒が軍務を投げ出して逃亡。少尉達が追いかけ極卒が國卒の分の軍務をする羽目に会い徹夜。
そのまた前は、ヴィルヘルムが極卒にセクハラ(肩に手を置いただけ)したと國卒が怒り狂い極卒の執務室を大破。修復作業と軍務で徹夜。
そのまた前は…(以下略
お蔭で極卒が家に帰るのは明け方4時頃。朝食を作らねばならない時間だ。
國卒も一緒に住んでいるので、偶には作って欲しいと思うのだが、言わない。極卒は國卒の料理の恐ろしさを知っている。その破壊力は凄まじい。
数週間前、MZDが知らずに國卒が極卒の為に作った弁当をかっぱらい、食った。すると、MZDは人とは思えない奇声を発し、顔を七色に変えてその場に倒れた。
ミミとニャミから聞いた話によると、最近やっと意識を取り戻したようだ。
そういう事件が他にも10件以上あるので、極卒は國卒に料理禁止令を出したのだ。
だから、言わない。言えない。國卒に「料理してください」なんて頼むのは、「大量殺人兵器を好きなだけ作ってください」と頼む様なものだ。
そういう訳で、極卒の睡眠時間が無くなってしまったのだ。

「極卒。」

「はい?何ですか兄様?朝食はまだですよ。」

タンタンと階段を下りながら國卒が極卒を呼んだ。しかし、料理の最中だったので極卒は振り向かない。残念。

「今日は休んで寝ていろ。最近寝ていないだろう。」

「え?でも今日は…」

「いいから。そんな身体で働かれてるとこっちが心配でしかたない。」

「はあ…。」

誰の性ですか…と突っ込もうとしたが、寸前で止めた。極卒は決めたのだ。今日は何もしないで寝ていようと…。
國卒が軍へ出勤してから30分後。粗方の家事が片付いたのでさあ寝よう。と思った時、ふと思い出した。
今日は近くのスーパーでトイレットペーパーの特売をやっていて、尚且つ今、家のトイレットペーパーの予備が少なくなっている事を。

「兄様に買ってきてもらお…ダメだ。兄様には頼めない。やっぱり僕が行かないと…。」

極卒は折角敷いた布団を畳み直すと、お財布と鍵を持ってスーパーに出かけた。國卒に頼めない理由は後日わかるだろう…。
テクテクとスーパーまで歩いていると、何やら人だかりが見えてきた。どうやら芸能人が来ている様だ。
芸能人よりトイレットペーパーが大切なので、道を迂回しようとすると、見慣れた闘牛服がチラリと見えた。
どうやら『ミラクル☆4』のウーノがファンに見つかってサインをねだられているみたいだった。

「あっごっくん!ごめん…ごめんねちょっと用事が…」

ファンの群れから出てきたウーノはズタボロだった。極卒はファンの恐ろしさを改めて知った…。
近くに駆け寄って来たウーノは、少しやつれているみたいだった。

「ウーノ…」

「ハァ…久しぶり。珍しいね。ごっくんが休みだなんてさ。どうかしたの?」

「朝、兄様が今日は寝てろ。と言って休みになったんです。寝ていようと思ってのですが…
トイレットペーパーの特売を思い出したので買いに行くところです。」

「寝てろって…ごっくん風邪でも引いたの?」

「単なる寝不足ですから。大丈夫ですよ。」

「寝不足ってそんな忙しかったの?…さて、嫌な予感がするから此処を離れようか。」

「賛成です。向こうから来る土煙がおとろしいです。」

あの土煙はファンではない。ファンはさっきウーノが抜けると蜘蛛の子の様に散ってしまった。では誰か。
そんなの決まっている。こんな時に現れるのは8割がた彼奴らだ。

「イッヒ リーベ ディッヒ!!」

「助けてー(棒読み)」

…毎度お騒がせヴィルヘルムと部下のジャックだ。
今日はジャックがヴィルヘルムに連れ回されている様だった。

「やあ極卒じゃないか!久方ぶりだな。元気だったか?」

「僕の記憶が正しいのなら、一昨日会ったはずですが。」

「そうだったか?最近物忘れが…」

「プ…その内徘徊するカニパンが見れるよ極卒。プププ…」

「黙れジャック!!」

「「ウザイよカニパン。」」

「げふぁ!!」

無駄にハイテンションなヴィルヘルムにウーノがキレてアッパーをして、ジャックが火を噴いた。焼きカニパンの出来上がり。
プスプスとマントが所々焦げてしまったが、気にしたら負けだ。

「何で二人の時に来るのかなぁこのヘルムは…邪魔だから消えてよ。ジャックもさ。」

「誰が消えるか!!邪魔なのは貴様だ!」

「上司は幽霊だから消えれるけど、オレは生きてるから無理。消えねえよ。」

ゴゴゴゴゴ…っという効果音が聞こえそうな雰囲気であった。そんな事より、極卒はトイレットペーパーの方が心配だった。

「ジャック…僕トイレットペーパー買いたいので、行っていいですか?」

「トイレットペーパー?無くなったの?極卒。」

「もう直ぐ切れてしまいそうなんで。」

「ふうん…でも上司とウーノは喧嘩始めちまったぞ?」

振り向くと、ウーノが一方的にヴィルヘルムを殴っていた。極卒もジャックも普段の光景なので気にしてはいない。気になったら負けなのだ。

「オレも行く。お一人様一個までだったら二つ貰えるし、此処に居たらいけない気がすんだよ。」

「じゃあ行きましょう。早くしないと…売り切れてしまうし、寝る時間が無くなってしまいます。」

「眠いんだ。じゃあ尚更早く行こう。」

こうして二人は喧嘩しているウーノとヴィルヘルムを見捨て、スーパーに急いだ。
トイレットペーパーはジャックの予想通りお一人様一個までで、極卒はジャックのお蔭で二個手に入れられた。
折角なので、今日の買い物を済ませてしまった。
帰り道、二人はどうなったか見てみると、やはりウーノがヴィルヘルムに一方的なリンチをしていた。
極卒とジャックは、角でそっと合掌した。ご愁傷様ヴィルヘルム。
家に着くと、極卒はジャックにお礼を言った。

「ありがとうございましたジャック。荷物ももってくれて…本当に助かりました。」

「別に良いよ。じゃあまた。今度遊ぼうな。」

「はい。ではまた。」

こうして、ジャックと極卒は別れた。ジャック的に中々良い去り方だったのだが、極卒にはいまいち伝わって無かった。残念。
用事が全て終わったので、やっと寝れると思った極卒だったが、家の中を見て絶望した。

「…兄様ぁ…!!」

まるで竜巻が通り過ぎた様であった。食器は派手に割れ、タンスは豪快に倒れ、布団は何故か風呂桶の中に浸かっていた。
ガラスは割れて、あちこちに散らばっている。襖は穴だらけ。畳には目にツーンとくる液体が染み付いていた。
他にも色々。コレが何故國卒の仕業か解ったのか。理由は一つ。
唯一無傷で残っていた下駄箱の上に「すまん。國卒」と書かれた紙が置いてあったからだ。
どうやら極卒はまだまだ当分眠れそうに無い…。








THE END






途中微妙にウノ極だったりジャク極だったり…
國卒は何がしたかったのだろう?



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