散切り頭を叩けば文明開化の音がする


カランコロン…カランコロン…カランコロン…カラン。
下駄の音が止まる。途端に、ゾクッとナカジの背中に寒気が走った。
しかし、ナカジの本能が此処に居ろ。と告げている。
逃げ出したい。けれど、此処に居れば良いこともありそうだ。
そんな葛藤をしていると、幸運と不幸が同時に来た。

「ナカジーナカジー!」

(この声は…!!)

バッと振り向き後ろを見る。そこには、大きく手を振っている極卒と、明らかに何かを企んでいる國卒と、死に掛けた六が國卒に引きずられていた。
六に何があったんだ…。ナカジは恐ろしくて聞けなかった。

「あーやっと見つけましたよナカジ。」

「オレに何か用事か?」

「極卒がどうしてもアレを叩きたくて貴様を探していたんだ…ひょ…ひょひょひょ」

國卒が口を押さえながら不気味に笑う。そこでナカジは察した。
(嗚呼…コイツ、極卒に何か吹き込んだな…)っと。

「ひょーひょっひょっひょっひょ!!はっ腹が痛い!!ひょひょひょひょひょ!!!!」

「兄様!笑わないでくださいよ!!…さてナカジ。君の頭は散切り頭ですか?」>
「は?…散切りといえば散切りなのかこの頭は…。多分散切り頭だ。」

「きょひょ!!」

途端に、極卒の顔は輝き、國卒は更に笑った。

「散切り頭がどうかしたのか…?」

「ざっ散切り頭を叩けば…」

「は?」

「散切り頭を叩けば文明開化の音がするのですよね?!叩かせてください!!」

「は…はい?」

「どんな音なのか一度聞いてみたいのです!!!」

極卒は目を輝かせてナカジに迫った。此処でナカジは感ずいた。

「まさか…それで六は…?!」

「六は兄様が叩いたらこうなってしまったんです。強すぎて悲鳴しか聞こえませんでした。」

國卒が叩いたら…。その言葉はナカジに恐怖を植えつけた。

きっと國卒は、あらん限りの力で六を殴ったに違いない。

(極卒に叩かれるのは大歓迎だ。叩かれたとしてもそんなに痛くは無いだろう…
しかし!叩くのが國卒なら勘弁してほしい。六みたいにはなりたくない。)
ナカジがあーとか、うーとか悩んでいると、國卒がナカジに追い討ちを掛けるように言った。

「極卒、今度こそ僕が文明開花の音を聞かせてやるからな。やっぱり、一京達は髪型が違ったんだ。」

(…何と言ったか?一京達は…?)
ナカジの脳内である仮説が成り立った。
(もしかしたら、六の他にも犠牲が多数いるのでは?彼らも同じように…)
ナカジの顔がどんどん青ざめていった。
(恐ろしい…何で叩くのは極卒では無いのだろうか?!)
そんな疑問ばかりがナカジの脳内をグルグルの巡っていた。
すると、瀕死の状態だった六が意識を取り戻し、最後の力でナカジに言った。

「ナカジ…耐えるんだ。そうすりゃ…極卒が…」

「?!何なんだ六?!」

「看…病…」

ボコッ!!
六は國卒に頭を殴られ再び意識を手放した。國卒は不吉な笑みを浮かべてナカジを見ていた。

「にっ兄様…何で六を…?」

こっそりと極卒が國卒に聞いた。すると、國卒は満面の笑みで極卒の質問に答えた。

「いや、六の頭に蜂が止まっていてな。刺されたら危ないだろう?だから仕方無く叩いたんだ。」

(おまっ…何で極卒にはそんな笑顔なんだよぉぉぉおおお!!!!)
ナカジの怒りは爆発寸前だった。だが、極卒の前で切れて嫌われるのも嫌だった。
すると、極卒は何処からとも無く包帯を取り出し、六の頭に巻きつけていった。
その時の六の表情は、心なしか微笑んでいたという。

「止血完了…で?ナカジは叩かせてくれるんですか?」

「え?あ…その…」

「極卒、無理矢理はいけないぞ。」

「わかってますよ。でも、MZDは兄様が問答無用で殴ったんじゃないですか。」

ナカジの顔が更に青くなってゆく。一体何人沈めてきたのだろうか。
一回は逃げ出そうかと考えた。が、中止した。それだと國卒から逃げるのと同時に、極卒からも逃げてしまう。
せれは避けたい。駄目!絶対!

「ナカジ…」

「…………………………(汗」

極卒が頼み込んでいる後ろで、國卒は嫉妬の炎で燃えていた。
まさにデッド オア アライブ。生か死か。

「ナカジー駄目ですかー?今度は僕が叩きたいんですよー。」

この一言でナカジに希望が見えた!
(極卒が叩くなら問題ない!むしろ叩いてくれ!)

「それならいいz「駄目だ極卒!こんなヤツを叩いてはいかん!!」

「くぃ?!何でですか兄様?!僕だって叩きたいですよ!!」

「駄目だ駄目だ!こんなヤツ触ったらフケが付く!!油が付く!!病原菌が付く!!」

「きょひょー?!」

「それは言いすぎで候!!!!」

ついにナカジが國卒に口論してしまった。今まで國卒と口論して勝てた物はいない。極卒は例外だ。

「何が言いすぎか。貴様なんぞを叩いたら僕の可愛い極卒が汚れるだろう!」

「過保護!過保護で候!!行き過ぎた過保護は極卒に悪いで候!!」

「何だとこの根暗メガネ!どうせ伊達だろうが!伊達メガネ!!」

「何たる侮辱!!許せん!!」

二人が頭に来て一戦交えようとした時、國卒に瀕死の六がクリーンヒットした。
どうやら、極卒が六を投げたようだ。

「極卒…?」

「何でだ極卒…」

「二人ともいい加減にしてください。ナカジ、頭は叩いていいんですか?良くないのですか?ハッキリしてください!!」

「ごッ極卒が叩くなら!!」

「兄様!邪魔なんで六とそこいらに立っててください!!」

「りょっ了解!!」

切れた極卒は國卒より怖かった。

「コホン…では、叩かせていただきます。」

そっと極卒はナカジに近づく。ドキドキと心臓が高鳴る…。
そして…。

「ぇえい!」

ゴスッ!!

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜?!?!?!?!?!?!」

何ともいえない痛みがナカジの頭を襲った。
思いっきりの想定外であった。極卒にこんな力があったとは…!!
痛む頭を抱えながら、ナカジは極卒を見た。
殴った本人は何とも微妙な顔をしていた。

「極卒…?どう…だったんだ…?」

「…………………………………」

極卒は無言のまま、クルリと背を向けて、ポツリと言った。

「想定外です…。もっとこう…違う音がするのかと思っていました。」

帰りましょう。と極卒は肩を落としながら國卒と、虫の息の六を引きずって帰っていった。
一人、その場に残されたナカジは、後悔した。

「もっと、変な音を出せば良かった…。」

その声は、遠くに行ってしまった極卒には聞こえなかった…。

後日、六の見舞いに病院に行くと、見慣れた顔が大勢頭に包帯を巻いて入院していた。
そして、ナカジは思った。

(こいつら全員国卒に叩かれたんだな…)

ナカジはひっそり、叩かれたのが極卒で良かった。と、安心して、優越感に浸った。







THE END






ナカ極目指したんだけど…書いてるうちに違ってきてしまった…。
まあいいんだけど。
ちなみに、入院患者のほとんど(9割)は出会いがしら、國卒に殴られ入院しました。





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